成果報告書 (新任助手研究助成) 助成金使用内訳書(PDF)
〔研究者〕 土木工学専攻 三木 朋広
〔タイトル〕
     短繊維補強コンクリート構造物の耐震性能評価に関する研究
1.はじめに
 コンクリート構造物の設計では、大規模地震に対して構造物にある程度の損傷を認めており、その性能照査時には、材料非線形性を考慮した解析によって損傷領域の大きさや程度を把握する必要がある。一方、地震時の脆性的な破壊を避けるためには、短繊維補強コンクリートの使用が有益であると考えられる。この材料に関する研究は、比較的長い歴史を有しているにもかかわらず、構造部材レベルの力学特性に関する知見が十分とは言えない。そのため、実施工において多用される状況とはなっていない。そこで本研究では、短繊維補強コンクリート構造物全体系を対象とした耐震性能評価手法の構築を試みる。このとき、簡便な解析モデルのひとつである格子モデルを用いる。ここでは、(1) 3次元格子モデルを用いた簡便かつ高い精度を有する解析手法を開発すること、(2) 各種実験結果と比較・検討し、本手法の適用範囲を短繊維補強コンクリート構造物に拡張することの2点を目的とする。ただし、構造物全体系を対象とした非線形解析手法の開発に関する成果は得られたものの、短繊維補強コンクリートへの拡張は、今後の課題としている。
2.解析モデル
 2次元格子モデルでは、コンクリートの斜め圧縮部材と斜め引張部材を、部材軸に対して45度と135度方向に規則的に配置している。さらに、端部節点以外で変位が独立な部材であるアーチ部材を組み込んでいる。そのため、これらの適切に配置されたコンクリート部材の組合せによって、斜めひび割れ発生後のマクロ的な圧縮力の方向の変化に対応することができる。
 図−1は、2次元格子モデルにおける部材断面の区分の概念図である。図のようにトラス部分とアーチ部分に区分すると、それぞれの要素の幅は、断面幅b に対して、アーチ部分はb ×t 、トラス部分はb × ( 1 − t )となる (ただし、0 < t < 1 )。このときt 値は、微小な強制変位が作用したRC部材において、構成要素のひずみエネルギーの総和と外力仕事の和で定義される全ポテンシャルエネルギーが最小となる時の値として定義する。このようにして求めたt値を、以後の解析に用いていく。
 3次元格子モデルの概念図を図−2に示す。4本のアーチ部材をそれぞれが載荷点位置と基部を結び、部材断面の対角方向に向かうように、かつ、互いに交差するように配置している。これによって、断面斜め方向からの加力に対して、載荷点位置から部材基部へ向かって、部材を斜め対角方向に貫くように圧縮ストラットが形成されると仮定している。また、正負繰返し荷重を受ける場合、水平力の方向が反転し、反転後に形成された圧縮力の流れがそれまでの流れと交差することを考慮して、アーチ部材はお互いが交差するように対称的に配置している。
図−1
2次元格子モデル断面区分の概念図
図−2
3次元格子モデル中コンクリート要素の配列
3.材料モデル
 コンクリートの斜め圧縮部材、アーチ部材に対して、帯鉄筋による横拘束効果を考慮した圧縮応力−圧縮ひずみ関係を用いている。さらに、実験的な研究に基づき、ひび割れたコンクリートの引張ひずみの増加に伴う引張と直交方向の圧縮強度の軟化挙動を考慮する。コンクリートの引張モデルに関しては、曲げ引張部材は軸方向鉄筋を含んだ領域に位置しているため、コンクリートと鉄筋の付着作用を考慮する。一方、コンクリートの斜め引張部材、およびアーチ部材は、鉄筋の付着作用が影響しない部材と仮定する。よって、コンクリート特有の脆性的な軟化挙動を破壊エネルギーGF = 0.1 N/mmを用いて表現する。
 鉄筋モデルに関して、座屈の生じていない鉄筋の応力−ひずみ関係において、応力が正負反転する際に現れるバウシンガー効果を考慮したモデルを用いる。さらに、鉄筋の座屈挙動に関しては、空間的に平均化する領域(座屈長L)と軸方向鉄筋の直径Ø の比L /Ø 、および軸方向鉄筋の降伏強度をパラメータとして考慮した座屈モデルを採用している。
4.対象構造物
 兵庫県南部地震で実際に被害を受けた2つのRC高架橋を対象として、3次元格子モデルを用いた時刻歴応答解析を行った。解析対象は、下食満高架橋R5と阪水高架橋R5とした。これらはほぼ同様の構造形式、断面形状であり、中層はりを有する三径間連続ラーメン高架橋である。このうち、下食満高架橋R5の全体系寸法、および代表的な柱とはりの断面図を図−3に示す。地震後の被害調査によれば、対象構造物の損傷は以下のとおりである。下食満高架橋R5では、損傷は比較的軽微であり、上層柱上端に曲げひび割れが観察された。近傍の地点において、同一形式ではあるが、高さが10.1 mから10.5 mである下食満高架橋R5より若干低い高架橋において、柱がせん断破壊して崩壊したものもあった。一方、阪水高架橋R5では、これより被害は甚大であり、上層柱、下層柱ともに大きなせん断ひび割れが生じ、下層柱は高架橋を支えきれずに崩壊に至っていた。
図−3 下食満高架橋R5の概要

5.解析結果と考察
 下食満高架橋R5および阪水高架橋R5を対象とした3次元格子モデル解析の結果を図−4に示す。下食満高架橋R5に関して、解析結果では下層柱の基部において、鉄筋の座屈が生じていた。一方、全ての柱はり接合部分の軸方向鉄筋に座屈モデルを導入しているものの、上層柱の頂部や上下層はりでは鉄筋座屈は生じていなかった。また、すべての上層柱、下層柱において、コンクリートの斜め部材でひび割れが生じ、引張軟化挙動を示していた。ただし、斜め部材やアーチ部材に生じた圧縮ひずみは小さく、ピークには達していなかった。これらの解析によって得られた挙動は、地震後の調査結果とおおむね一致していることがわかる。
 一方、阪水高架橋R5については、約3.5秒時に解の発散により計算が終了している。これは、下層柱の斜め部材および曲げ部材において、コンクリートの圧縮軟化が急激に生じているためである。このとき、上層柱においては、斜め部材やアーチ部材における圧縮軟化挙動は見られなかった。実際、阪水高架橋R5では、下層柱のせん断破壊が生じており、上部構造の重量を支えられなくなり構造全体が崩壊に至っていることが、地震後の被害調査で見られている。
 解析が発散によって終了した阪水高架橋R5について、地震時のせん断破壊挙動をより詳細に検証するために、各構成要素の応答を見ていく。ここでは、下層柱の構成要素に着目する。コンクリートの曲げ部材の応力−ひずみ関係と斜め部材のひずみ履歴を図−5に示す。同図には、解析によって得られた発散する時刻から1つ前のステップの変形図も示す。解析結果を見ると、コンクリートの曲げ部材の圧縮軟化挙動が見られる。さらに、要素A、B、Cにおいて非常に大きな圧縮ひずみが生じている一方、それに隣接する要素Dでは引張ひずみが増加していることもわかる。これは、地震力によって加えられたエネルギーが、数個の要素(図−5中の要素A、B、C)によって局所的に消費され、それに引きずられるように周りの要素(要素D)が引張を受けていることによるものであると考えられる。
 ここで、3次元格子モデルでは、骨材のかみ合わせによるひび割れ面に沿ったせん断応力の伝達を直接表現することができないため、ひび割れ幅の拡大に伴う骨材のかみ合わせによる応力伝達性能の低下を、斜めひび割れ平行方向の圧縮伝達性能の低下としてモデル化している。その結果、解析におけるせん断破壊モードは、コンクリートの斜め部材やアーチ部材が圧縮軟化し、耐荷力が低下していく挙動として捉えることができる。つまり、阪水高架橋R5では、下層柱でせん断破壊が生じていることを解析的に再現していることがわかる。
図−4 上側はり中央位置着目点における応答変位(3次元格子モデル解析の結果)
図−5 阪水高架橋R5に関するコンクリート要素の応答(鉛直荷重考慮の場合)
6.まとめ
 本研究では、3次元格子モデルを用いて、RC高架橋全体系を対象とした時刻歴応答解析を行った。解析の結果と、兵庫県南部地震でRC高架橋の実際に見られた被害を比較することによって、柱基部での軸方向鉄筋の座屈や柱のせん断破壊を妥当な精度で予測可能なことを明らかにした。以上の3次元格子モデルを用いた検証によって、構造部材レベルに加え構造全体系の地震時応答予測への適用可能性を示すことができた。ただし、ここでは地盤と基礎はモデル化に含まれておらず、地盤、基礎、構造物の連成作用が構造全体系の地震時挙動に与える影響については、今後の課題である。
参考文献
1) 三木朋広, 二羽淳一郎:3次元格子モデルを用いた鉄筋コンクリート部材の非線形解析, 土木学会論文集, No.744/V-65, pp.39-58, 2004. 11
2) 土木学会:阪神淡路大震災の被害分析に基づくコンクリート構造物の耐震性能照査方法の検証, コンクリート技術シリーズ49, 2002. 1